若宮の部屋のあとは朝香宮殿下と允子妃殿下の居住スペースを見学します。
殿下と妃殿下のこだわりがぎゅーっと濃縮された素敵な空間なのです。
2階 書庫
殿下の書庫は本棚ぎっしり。扉からの見学で近くには行けないけれど、きっと本棚は大切に使われていたんでしょうね。木のぬくもりと暖かさが感じられるようです。ここに本がぎゅっと詰まっていたら本好きにはたまらないだろうな。
殿下の書庫の装飾がこれまた素敵で、シーリングライトがまたおしゃれなでのです。
照明が吊る下がっている部分の天井の装飾はアラベスク文様。細かい意匠が素敵でため息でちゃう。
2階 殿下の書斎
殿下の書斎は残念ながら入ることはできませんが、アンリ・ラパンのこだわりが濃縮されたお部屋です。
正方形の四隅に飾り棚が置かれていて、まるで部屋全体が円形のように見えます。円形のドーム型の天井が、さらに円形のように感じさせてくれるなぁ。
戦後の1947年に朝香宮鳩彦王が皇籍離脱し、退去した後の一時期は吉田茂が外務大臣公邸、首相公邸として使用していましたが、その時には執務室として使われていました。程よい広さで、落ち着いて考えごとをするには良い部屋だったのでしょう。
なお、お部屋だけでなく、この半円形の机も椅子も絨毯もアンリ・ラパンがデザインしたもの。この机もまた面白くて、回転式で、方向が変えられるようになっています。殿下が座った時に陽の当たる方向に動かして執務ができるようになっているんです。あまりに凝ったデザインは実際に使う時に機能的ではない場合もあるけど、この机は優れものです!
近づくことができないのが残念ですが、このデスクの盤面が素晴らしい。
写真ではわかりませんが、分厚いガラスの下の白い部分には居間の壁紙と同じ模様が描かれていて、復元に大活躍してくれたんです。
2階 殿下 居間
書庫、書斎とならんで隣は殿下の居間。入ると独特な柄のデザインパターンで埋め尽くされている!
大理石の暖炉の上に半円形の鏡。それに沿ってヴォールト天井(かまぼこ型)が広がります。
暖炉のラジエーターレジスターはアール・デコのデザインパターンでよく使われる噴水柄です。噴水って女性っぽいデザインかな?と思ったけど、堂々たる迫力のあるデザイン。
カーテンと壁に使われているデザインも噴水のような放射のラインの組み合わせで、フランスのデザイナーによるもの。
数年前に壁紙を復元しようとしたとき、建築当初の写真はモノクロだったため、デザインはわかっても色味がわからない。書斎のあの回転式のデスクの盤面にうっすらとそのデザインが残っていて、それをもとに色味を推定して数年前に復元したそうです。分厚いガラスのおかげで空気が入りにくくなっていて、変色せずにかろうじて残っていたんですね。百年名家で書斎のデスクのそのデザインが放送されていましたが、本当にうっすらとしていて、ここから色味とかを推測していったってすごい。
壁紙のデザインを際立たせるかのように柱は細い木材が使われています。
ここまで見てきて思ったのは、朝香宮殿下の財力であれば、太いがっしりとした柱を据えるのも可能。でもこの壁紙にそういった柱ではうっとうしく見える。細い木材を複数渡す。そこのバランス感が抜群。
しかもどの柱も上部には素敵な柱頭飾りが。これには下記の2つの説があるそうです。
- フランスから送られてきた木材を組み立てるときに寸法が足りないものがあった。ブロンズ部分で補った
- 木だけの装飾は殿下のお気に召さなかった
どちらにしても、細い柱にブロンズの柱頭飾りは、とても締って見えます。
一見、派手なデザインのように見えるものの、色味が抑えられているので落ち着いて過ごせるのかもしれません。
2階 殿下 寝室
寝室は書斎や居間と違ってシンプル。
扉の素材はクスノキで、これまた珍しくて高価そうな木材を使っています。
4か所の扉にはクスノキの玉杢(たまもく)が装飾として使用されています。玉杢とは、樹木の”こぶ”のある面をスライスすると現れる、比較的大きな同心円形の模様のことです。
公式サイトより
とあるのだけど、その玉杢部分は目で見てもよくわかりませんでした。なんらかしらの模様はあるんだけど・・・。でも、とにかく高そうだということだけはわかった!
そしてまた、照明がかわいくて悶える件。
居間の照明は宮内省内匠寮が居間のイメージに合わせてデザインしたもの。鎖の部分も凝ってるし、よく見ると電気の部分の装飾が細かい!
照明と採光の加減で暖房カバーがわかりづらいのですが、窓の下のラジエーターレジスターのデザインが噴水なのは、↓下の写真でわかるでしょうか?
そして寝室の窓の方に目を向けると、サンルーム???
2階 第一浴室
サンルームらしきものには行かず、居間の隣にある第一浴室へ。
バスタブとトイレがあるこの一画は、さらに先に允子夫人の寝室があり、共用のバスルームでした。といっても主に殿下が使用したらしい。
水廻りは一番生活がわかると思っていて、浴室やトイレまで細かくチェックするワタクシですが・・・
バスタブは大理石???
壁も大理石?
洗面台も大理石???
そして床のモザイクタイル、かわいい!
天井もかわいくない!?
朝香宮邸には浴室が3つあり、そのうちのひとつですが、いやあ、とにかくゴージャス。
壁のブルーの大理石は、1階の受付を入ったところすぐにあった洗面台と同じ「ヴェール・デ・ストゥール」という今は産出されていないという貴重なもの。それをこんなにふんだんに使ってる!
床のモザイクタイルは山茶窯(つばきがま)製作所によってつくられたもの。小笠原伯爵邸でもこの製作所のタイルが使われているそうです。
浴室にはオイルヒーターもあるようで、これは冬場でも寒くなくて快適ですね。
2階 妃殿下寝室
殿下の居住スペースから浴室を挟んだ反対側にあるのは妃殿下の寝室。
浴室の両側に殿下と妃殿下の寝室があるんですね。
これまた素敵な照明。
吊り下げられている照明は、上下に動いて高さが変えられるそうです。
妃殿下は絵がお得意ということで、この壁の上下にあるラジエーターレジスター(暖房機カバー)は、妃殿下自身が描いた絵をもとにデザイン画を起こしたもの。お部屋には妃殿下の描かれたお花の水彩画が飾られていました。
居間へ続くドアに楕円形の鏡があるのも女性にとっては使いやすくて嬉しい。
現在は白で統一された穏やかな色合いの部屋ですが、竣工当初は赤に近いワイン色でとても派手な壁紙だったそうです。允子妃殿下は自分がフランス人デザイナーとフランス語で直接やり取りしたりとこの邸宅については思い入れも深く、自分の好きなものに囲まれて生活していくのだろうと思われていた矢先、竣工後半年で病に倒れ、このお部屋で亡くなったそうです。
2階 ベランダ
見学の順番でいうと妃殿下の寝室から行くことになるのですが、殿下の居間、寝室、第一浴室、妃殿下の寝室、妃殿下の居間まで横渡りで「ベランダ」があります。浴室以外はどの部屋からでもベランダに出ることができるのだけど、殿下の部屋、妃殿下の部屋経由でないと入れないプライベートエリアでした。
建物の南側にあることから日当たりが良く、冬でも暖かい。冬場はここでくつろがれたのでしょう。
市松模様は日本のデザインパターンですが、黒と白のこの色合いだとモダンに見えるのが不思議です。
それでも床を見ると高そうな素材を使っているのがわかる。床はやっぱり大理石!国産のものを使用しているそうです。
夏は暑いですが、それでもエアコンが効いていてとっても涼しい。ここに置いてあるベンチでお庭を見ながら一休み。朝香宮ご夫妻の気分が味わえるかも。
2階 妃殿下 居間
妃殿下の寝室と居間は隣同士ですが、見学順路通りに進むとベランダから妃殿下の居間に入ることになります。もちろん、妃殿下ご自身は、寝室から鏡付きのドアを開けて入っていたのでしょう。
大きな鏡と大理石のマントルピースに目が行きがちだけど、大理石の暖炉のカバーは百合と青海波のような半円形の模様。暖炉以外のラジエーターレジスターははまた別のお花のデザインです。どちらのデザインも素敵。
照明がおしゃれだな!
本場のアール・デコのデザインを参考に内匠寮が制作したという。その参考となった写真を百年名家で見ましたが、元のデザインよりこちらのほうが優しい感じがして好きです。
部屋の南側にある妃殿下専用の半円形のバルコニーは、敷き詰められたモザイクタイルがかわいい!
思わず「うわぁ。素敵」と声をあげてしまうほど。
青がきれいなこのタイルは、泰山(たいざん)タイルです。泰山タイルは、そういえばこの近くにある旧公衆衛生院(港区郷土歴史館)の地下の食堂跡でも使われていましたね。
さすが女性の部屋だなぁと思うのは、小物などがしまえる収納が多いということ。暖炉の両サイドに木の扉がついているのは、たぶんこれ、収納だよね?
その右側にある一段引っ込んだ床の間のような不思議な空間。当時の写真を見ると、今、中央の展示ボックスがあるところにはソファーが、その両サイドの収納ボックスの上には人形や小物が飾られたガラスケースが置かれていました。
他のどの方のお部屋よりも趣味のグッズにあふれ、生活感があるお部屋で、妃殿下の人となりがうかがえるようで素敵でした。
いやぁ。これでこそ注文住宅。施主さんのこだわり満載で見学がとても楽しかった!
建物の紹介は次回が最後。とってもかわいらしい姫宮のお部屋です。
旧朝香宮邸物語―東京都庭園美術館はどこから来たのか
朝香宮家についてから旧朝香宮邸の建物、装飾、調度品にいたるまでを解説した本。
写真も多くて読みごたえがあります。旧朝香宮邸に置いてあり、ミュージアムショップでも購入することができます。
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