旧朝香宮邸 ①東京都庭園美術館 アール・デコを極めたすべてが美しい館

東京メトロの白金台駅とJR目黒駅の間にある東京都庭園美術館
かつては朝香宮家の邸宅でした。当主である鳩彦王はパリで2年半生活したのちにこの邸宅を建設。当時フランスを中心にヨーロッパで流行していたアール・デコ様式がふんだんに取り入れられています。
どの部屋も美しく、建物自体がまるで美術館!アンリ・ラパンルネ・ラリックなど人気デザイナーが装飾を手掛けていて、彼らの名前を館内で探すのも楽しい!

旧朝香宮邸 東京都庭園美術館
旧朝香宮邸 東京都庭園美術館

洋館好きなら一度は行ってみるべき!東京都庭園美術館をご紹介します!

 

旧朝香宮家とは?

久邇宮朝彦(くにのみやあさひこ)親王の第8王子の鳩彦(やすひこ)王が1906年(明治39年)に明治天皇から朝香宮の宮号を賜って創設した宮家。朝香宮家は明治天皇の皇女である允子(のぶこ)内親王の嫁ぎ先でもあり、旧朝香宮邸は鳩彦王の邸宅として建設されました。

建物公開の期間中は館内の写真を撮ることができます!

 

設計者について

設計は皇室建築や儀式で使用する建物を多く手掛けた宮内省内匠寮(たくみりょう)。宮内省の中の設計集団です。
技師は権藤要吉で、権藤は欧米に派遣されてイギリス・フランス・ベルギーなどをまわりました。朝香宮夫妻とはロンドンで出会っているそうです。ご夫妻も見学したというアール・デコ博覧会にも行っているということなので、朝香宮夫妻にとってアール・デコを取り入れた邸宅を建てたうえではこの上ない相談相手だったことでしょう。
権藤は朝香宮邸以外にも旧李王家東京邸(現在は赤坂プリンス クラシックハウス)の設計にも携わっています。旧李王家東京邸もこれまた素敵な建物。赤坂プリンスホテルの閉館に伴い、いったん休館してリニューアルして現在はレストランとなっています。

宮内省内匠寮の設計では、他にもこれらの建築物があります。

  • 竹田宮邸(高輪プリンスホテル 貴賓館)
  • 東伏見宮邸
  • 秩父宮邸
  • 旧久邇宮邸(通称「パレス」・聖心女子大学構内)
  • 宮内省庁舎(現・宮内庁庁舎)

 

旧朝香宮邸を彩ったアーティストたち

建物、装飾品にいたるまですべてが美術館クラス!
朝香宮邸を彩った芸術家たちを作品とともに紹介します。

 

アンリ・ラパンの作品
アンリ・ラパン
室内装飾、家具、壁画、ステンドグラス、陶磁器など幅広いジャンルで活躍。朝香宮邸では
大広間、大客室、小客室、次室、大食堂、殿下書斎および居間の全7室の内装デザインを手がける。小客室の壁画と大客室の壁画はラパンによって描かれたもの。小客室の壁画には「H. RAPIN」と名前が書かれている。次室の香水塔も彼の作品。
ルネ・ラリック作品
ルネ・ラリック
ジュエリー・デザイナーであり、ガラス工芸家。朝香宮邸では、正面玄関のガラスレリーフ扉をデザイン。扉の下にある彼の名前も要チェック!
大客室のシャンデリアもラリックの作品です。
イヴァン=レオン・ブランショの作品「戯れる子供たち」
イヴァン・レオン・アレクサンドル・ブランショ
ボルドー生まれ。画家であり彫刻家。朝香宮夫妻がフランス滞在中に允子夫人に絵を教えていた縁で朝香宮邸の新築に携わる。
大広間の大理石レリーフ、大食堂の壁面レリーフは彼の作品です。
レイモン・シュブ
パリ生まれの鉄工芸家。曲線と幾何学模様のデザインは豪華客船や数多くの建築の室内空間、ファサードを飾った。
朝香宮邸では大客室のガラス扉の上のタンパンを手掛けている。
マックス・アングラン
フランス生まれの画家、工芸家。ガラス工芸を中心に豪華客船の内装もデザイン。朝香宮邸では大客室と大食堂の扉のエッチング・ガラスを手がけた。

皇室の建築物は宮内省が手掛けることが多いのですが、フランスのアール・デコの代表的な作家の作品を取り入れたことにより、すべてをアール・デコ様式で作ったという極めて特殊な建物なんです!

 

朝香宮邸 玄関では狛犬がお出迎え

狛犬がお出迎え
狛犬がお出迎え

外観はとってもシンプルなのですが、コンパスや定規で描かれたような幾何学的な模様がところどころに見えます。この模様が「アール・デコ」なわけです。

そして洋館なのになぜか狛犬が!

本来はアール・デコ調の電灯を置く想定だったのが、殿下のこだわりで狛犬になったそうな。

 

玄関でまず、一度、驚いてください。

ラリックデザインのガラス扉
ラリックデザインのガラス扉

入ってまず最初に目がいくのがルネ・ラリックデザインのガラス扉。翼をもつ女性の姿が美しい。
女性の体の部分に注目!ここを持ってドアを開けるのです。
ラリックのもともとのスケッチは女性は裸体だったそうです。そこを持ってドアを開けるわけで。
女性の裸の部分をつかむというのは具合が悪いということで、着衣の状態になったといいます。

この邸宅を建てるために多くのフランス人デザイナーが関わっていますが、誰一人、来日していないそうです。日本側で作りたい家のイメージを伝えて、フランスで作成し、船で輸送してきたというから驚きです。
実物を見ないでよくこれだけのものがイメージできて制作できたな!
允子妃殿下がフランス語が堪能だったということで、允子様がイメージを伝えるのに一役買ったというエピソードが残っています。

ラリックの銘がわかります?
ラリックの銘がわかります?

右から2番目のガラスの下にラリックの銘があります。ぜひその目で確かめてみてください。

それにしても入口から度肝抜かれます。足元はこんな素敵なモザイク。

足元にはモザイク
足元には大理石のモザイク

細かい!そして非常におしゃれ!!! これだけでも手間暇そしてお金もふんだんにかかっているのがよくわかる。すべて大理石で、このデザインは宮内省内匠寮のデザインだそうです。日本とフランスの究極のコラボですね。

玄関を入ると正面にラリックのガラス扉。その左には第一応接室があります。ガラス窓からしか眺めることができないのですが、宮家を訪れたゲストのお付きの方が待つ部屋として使われたそうです。ガラスが反射して自分が写りこんでしまい、よくわからないのでぜひ自分の目でみてくださいな。
家具も照明も宮内庁内匠寮の設計ということで、とても素敵ですよ。

まだ入館していないというのにこの充実度。ガラス扉の右側の受付を通ってさっそく中へ。

受付があるスペースは「受付外套室」として使われていました。外套(がいとう)・・・コート。いわゆるクロークですね。
スタッフがいるので写真は撮りませんでしたが、現代のオフィスの会議室のように仕切れるようになっています。裏側にはゲストから預かった荷物やコートが置かれていたのかな。見せたくないところは見せないようになっていたのでしょう。

一つ気づいたのは、ラリックのガラス扉の左側の第一応接室は、受付を通さず入れるということ。大事なゲストは受付を通すけど、それ以外は通さない。導線は完全に分けてあるという徹底ぶりはすごい。

受付を入るとまず目がいくのがバラの花のようなレリーフ。大階段の裏側にあるのだけど立体的で美しい。
この段々がそのまま階段なんです。

アール・デコなすかし彫り
アール・デコなすかし彫り

洗面台?手洗い?と不思議ですが、この右側にガラス扉があって、その先は来客用のトイレになっています。一般客には非公開なのですが、BS朝日の「百年名家 美の饗宴「旧朝香宮邸」前編」という番組で紹介されていました。トイレは床一面をモザイクタイルが覆っています。これも内匠寮のデザインだそうな。

手を洗うのがもったいない!
手を洗うのがもったいない!

この洗面台に使われているのはフランス産の大理石。ひぃ~。
現在はもう、フランスでも採れない大理石だそうです。
朝香宮では20種類もの大理石が使われているそうで、そんなにたくさん大理石の種類があることすら知らなかったわ!

そして、アンリ・ラパン自らプロデュースしたという大広間。

1階 大広間

大広間
アンリ・ラパンプロデュースの大広間

照明がイマドキでおしゃれだわ。と思ったら、当時のままのデザインだそうです。洒落てるわ。

大広間の中央にあるマントルピースはイタリア産の大理石「コルトロ」で、黒の中に金色のマーブル模様が特徴。これだけは日本で作られたそうです。

大広間と大階段
大広間と第一階段

写真右の壁のレリーフは大理石!
イヴァン・レオン・アレクサンドル・ブランショの作品「戯れる子供たち」という作品です。画家であり、彫刻家であるイヴァンは、朝香宮夫妻がパリ滞在中に允子夫人に絵を教えていたという縁で朝香宮邸の新築時に携わりました。大広間の大理石レリーフの下には「BLANCHOT 1932」というサインがあるのがわかります。

ガラスレリーフ扉を裏から見たところ
ガラスレリーフ扉を裏から見たところ

マントルピースの近くまできて後ろを振り返ると、正面玄関のルネ・ラリックのガラスレリーフ扉が。

裏から見たガラスレリーフ扉
裏から見たガラスレリーフ扉

裏から見てもため息が出るほど美しい。観音様を思わせる。

大広間から第一階段を上って2階に行きたいところですが、まずはこれを見ないと始まらない。

次室(つぎのま)の部屋の中央に何かすごいものがある!

1階 次室(つぎのま)

次室(つぎのま)
次室(つぎのま)

部屋の中で存在感を発揮しているのはセーブル青磁器の噴水器
なんと、部屋の中に噴水を置くという贅沢。

 

香水塔
香水塔

このセーブルの置物、白い陶器の部分がとても薄く作られているそうです。
噴水器にはライトがつくようになっていて、白い陶器部分を通して光を通す。ほんのり明るくなる仕組み。

允子夫人は香水をたらしてライトをつけ、香りがライトの熱で広がるのを楽しんでいたそうで、そこから「香水塔」とも呼ばれました。

昭和初期にアロマテラピー
なんとハイカラなんでしょう。

 

この部屋だけでもものすごく贅沢な作りでして、

  • 香水塔の土台と柱の黒い部分は、コンクリートの上に黒漆を塗っている
    金沢の漆職人遊部重二によって手掛けられ、遊部はこの技術の特許を日本だけでなく米・英・仏・独でもとっている。
  • 壁の朱色部分にはプラチナが埋められている
    光の当たり具合でキラキラ光る!
  • 香水器の上の天井は白漆喰でドーム状に演出。下にある香水器が映えるようになっている。

朱色の壁と黒い柱の部分、上部のが相互に映え、とてもおしゃれ。それでいて、朱色と黒の使い方はどことなく日本的で神社を思わせる。まさに和製アール・デコ
こんなにいろいろ盛ってるけど、チグハグではない。品があるところがまたすごいんだな。

次室から大客室へ
次室から大客室へ

で、上にばかり目が行きがちだけど、床のモザイクも素敵

次室だけでも朝香宮邸のポテンシャルをじゅうぶん感じます。

 

次室から続くのは小客室。こちらは次室とうってかわって、落ち着いた雰囲気の小部屋です。

1階 小客室

小客室
小客室

少人数の来客がった時に迎える客間は、四方の壁をアンリ・ラパンの壁画が埋め尽くしています。木々が淡い緑で描かれていて、まるで森の中にいるよう。緑というか青というかこの色の使い方が印象的で、この部屋に置かれた青い蓋つき壺も濃い青から壁画の色のような薄い青に変わっていくグラデーションがとても素敵なのです。

写真にうつるラジエーターレジスター(暖房機カバー)は幾何学的なデザインは、宮内省内匠寮のもの。朝香宮邸の各部屋の照明とレジスターはそれぞれの部屋でデザインが異なっていて、どれも素敵。デザインのコレクションをしたいくらいです。

アンリ・ラパンの名前がある
アンリ・ラパンの名前がある

壁画には「H.RAPIN」のサインが。ぜひ探してみてください。

大客室・大食堂編へ続く

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旧朝香宮邸(東京都庭園美術館) 旅行記INDEX

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旧朝香宮邸物語―東京都庭園美術館はどこから来たのか
朝香宮家についてから旧朝香宮邸の建物、装飾、調度品にいたるまでを解説した本。
写真も多くて読みごたえがあります。旧朝香宮邸に置いてあり、ミュージアムショップでも購入することができます。

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