東華菜館① 憧れのヴォーリズ建築で中華ランチ

2022年8月。京都を中心に展開している「まいまい京都」のツアーに参加して、ヴォーリズ設計の東華菜館でランチをしてきました!
四条大橋のたもとにある、そう、あの装飾が豪華なレトロ建築です。
いつも前を通るたびに行ってみたいと思っていたけど、ランチでもコースメニューは敷居が高く、でも単品を頼む勇気もなく、ヴォーリズ建築だとわかってはいたものの、なかなか入ることができませんでした。今回はツアー参加ということで、館内の見学もできるということで、東京から日帰り弾丸京都旅。
1階から屋上に至るまで、凝った内装はそれぞれ異なっていて、どの部屋に入っても驚嘆と感動のため息でした。

東華菜館とは

1926年(大正15年)に竣工したレストラン。設計者はウィリアム・メレル・ヴォーリズで、商業ビルも多く設計したヴォーリズですが、唯一手掛けたレストラン建築です。
現在は中華料理のレストランになっていますが、当初は八百屋をやっていた「矢尾政」の店主だった初代の浅井安二郎が和風の店舗で強風料理店を運営していました。二代目の浅井安二郎が、その後のビア・ホールブームに乗って、ビアレストランの店舗をヴォーリズに設計依頼をしました。有名なエピソードが残っていて、矢尾政が設計を依頼する際には、敬虔なクリスチャンで酒・タバコをやらなかったヴォーリズには「お酒を出さないレストラン」と話をしていたという。施主さんの依頼に応じて使いやすさを考えて設計するヴォーリズですが、お酒を出すことは知らされていなかったため、重い酒瓶などを運ぶための導線は考えられていないそうです。

矢尾政として運営していましたが戦中には「洋風レストラン」を運営するのは許されず、戦時中は食糧倉庫になっていたというのがもったいない!戦後はそのままだと建物が米軍に接収されてしまうと案じ、中国人の友人に建物を託しました。そして戦後に中華料理店としての東華菜館がスタートしました。

東華菜館の特徴
・スペインバロック式を採用。装飾性が高く、また塔屋と煙突があるのはバロック式の特徴
日本最古クラスのエレベーターが現役で動いている!
・外観は4階建てに見えるが、5階は少し引っ込んでいてテラスを備えたフロアになっている。
・それぞれの部屋が全く異なるデザイン。壁の装飾もシーリングライトも素敵。アラベスク模様がとってもエキゾチック!
ヴォーリズが設計した時代の家具が残っている!

と、東華菜館はどのフロアも見どころ満載。

西洋人が思い描く「日本」はどうしても中国っぽいものになりがちで、赤や金を使ったきらびやかな装飾、「福」の字が逆になった飾り文字を掲げていたり、ラーメン鉢の縁取りのような模様とか、いやそれ、中国だし、と思うことが多い。
この建物は中華レストランを想定していなかったにも関わらず、ヴォーリズが多用するアラベスク模様のモチーフがエキゾチックな雰囲気を醸し出している。ランプや衝立など何かひとつ中国っぽい装飾をするだけで、中華料理店のような雰囲気を出す事が出来ている。結果として現在は中華料理レストランになっているが、それでも違和感が無いところが面白い建物です。

 

東華菜館へ

まいまい京都のツアーでは清水五条駅に集合し、鴨川を渡り、木屋町通りを一本入った西石垣通りまで、さまざまなタイプの建物を案内してもらいました。

小さな路地である西石垣通を歩くと東華菜館が見えてきた。
四条大橋を渡るのではなく、西石垣通りから見ると、まるでヨーロッパを歩いて教会を見つけた時のようだ。ガイドをしてくれた円満字さんが言っていましたが激しく同意!パリやモントリオールの路地を歩いていて教会を見つけた時を思い出しました。
(モントリオールのノートルダム・ド・ボンスクール教会の周辺がまさにこんな感じだった!)

東華菜館は裏側から見ても黄土色の石の壁と塔屋が特徴的ですぐにわかる。
正面しか見たことなかったので、こんな裏口があるとは気づかなかった。ドアの上の装飾も単にアーチ状でなくて凝ってるなぁ。

 

東華菜館 外観

そして正面に立ってみると、何度見てもすごい。バロック式の特徴でもある、必要以上の装飾!

東華菜館 正面
入口の装飾が素敵!

 

食べ物をモチーフにした装飾に注目!

東華菜館はレストランということもあって魚介類や野菜、果物など食べ物をモチーフにしたレリーフが多い。正面入口の上のレリーフも上部には、その下には口を大きく開けた。よく見ると、魚の口の中の歯まで再現されている。芸が細かい!

東華菜館 入口正面のレリーフ
羊や魚、貝類などの食べ物がたっぷり!

食べ物の装飾が多いのだけど、この時代の関西では羊は常食されていたのかなぁ?

 

東華菜館 エントランス正面入口も細部にわたって彫刻が。いっさい手抜き無しっ!

 

東華菜館 エントランス
ユーモラスな魚の彫刻

宇上を見上げるとガラス扉の上にはヴォーリズお得意の八芒星が。そして真上を眺めると、鯛のようなユーモラスなお魚!

ガラスドアを開けて中に入ってみる。ガラス扉は平行に2枚あって、1枚目のドアを開けると驚きの光景が待っていた!

蛸のモチーフに注目!

こ・・・これは蛸(タコ)ではないか!

ここにタコを掲げるのはすごいな。

東華菜館 エントランス
珍しい!蛸のモチーフ

西洋ではキリスト教の宗教観からタコは「悪魔の魚」と呼ばれ、北米でもヨーロッパでも食事にタコは出てこない。そもそも食べ物という認識が無い。最近では日本の「たこ焼き」が知られるようになり、受け取り方もだいぶ変わってきたけど、ワタシはあのビジュアルからもうすでにタコが無理なので当時の欧米人の気持ちがよくわかる

そのタコを否定せずに、このエントランスの目立つところに彫らせるって、日本在住で、日本の食生活をちゃんと知っているヴォーリズならでは。「お雇い外国人」的に日本で短期間に仕事をしていた欧米人には出てこない発想ですね。

入口の一つ目のドアを開けるとタコの彫刻に出会えるのだけど、もうひとつのドアとの間の狭いスペースでも手を抜かない!

東華菜館 入口の天井
アラベスク模様の天井

実際に見た時は天井が高いので下からではよくわからなかったけれど、これ、山型に白くなっているところは壁画でなく彫ってるみたいだな。写真をアップで見ると凹凸感がある。天井なので近くで見られることはないのに、なんと凝っているんだ!

もう、入口だけでも圧倒されるのだけど、2枚目のガラス扉を開けると想像以上の世界が広がっていた・・・。

 

1階 ロビー

まず、その天井に目を奪われる。なんと表現したらよかわからないけれど、木を彫った部分にくすんだビリジアンのような色を塗っているのかな?

東華菜館 1階の天井
1階 天井の細工が細かい!

柱の部分は外観のような材質で、外から入ってきた時に見慣れているのでそこはスルーして、目線が天井を見るように考えられている!?
口をポカーンと開けて魅入ってしまった。

東華菜館 1階
アジアンテイストな衝立

1階は衝立の先には行くことができないのでどのようになっているかわからないけれど、写真に向かって左側(鴨川側)は鴨川に向けて桟敷席(京都風に言うと”川床”っぽい感じ)のように突き出していて、テラス席で、ランク的には「大衆食堂」という位置づけだったらしい。
残念ながら昭和9年(1934年)の台風被害で撤去されてしまったそうです。テラス席があった名残が鴨川に面した壁面にあって、2つのドアが鴨川に面して付いています。そこから出入りしたのでしょう。
外のテラスでテーブルと椅子でビールを飲みながら食事をする。いかにも欧州のカフェみたいですね。

天井に見惚れていたけど、右を見ると、おぉ。これが日本最古級のエレベーターか!

日本最古級!半手動で動くエレベーター!

 

東華菜館 1階のエレベーター
日本最古級のエレベーター!

どこの階に止まっているのかを知らせる表示もこれまたおしゃれ

東華菜館 エレベーター内
エレベーター内も凝っている!

昔のハリウッド映画に出てくるような扉の先に柵があるタイプのエレベーター。しかも内部はこれ、木造か!?

エレベーター内の装飾にはラーメン鉢のような模様が。
これだってさ、ここまでやる必要性はまったく無いのだよ。それでも遊び心満載でこういうデザインパターンを楽しむのもヴォーリズ建築の魅力のひとつですな。

そしてこのエレベーターの面白いところ。エレベータを動かすためのハンドルがエレベーターにあること!

このエレベーター、エレベーターの扉と内側の柵はともに手動で開閉します。
ないぶにある操作ハンドルを倒すと動き、戻すと止まる。
銀座の奧野ビルもドアの開け閉めを手動で開け閉めするけど、階数指定はボタンで指定する自動。それを考えると東華菜館のエレベーターが日本最古クラスというのは納得です。

アナログの針が示す階数表示は1階と2階から上とではまた変わっているのも面白い。

東華菜館 2階のエレベーター
階数表示が下向き!

2階以上は階数表示が下向きの半円になっている。
同じにすれば発注だって制作の手間も省けるだろうに。ものすごいこだわり様だな!

>> 5階と屋上の塔屋を見に行く!

東華菜館 塔
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