白金台駅を降りるとすぐにある港区立郷土歴史館。「東大の安田講堂か!?」という堂々とした建物です。ずっと気になっていたのだけど、2020年7月にやっと行ってきました!
おなじく白金台駅が最寄りの東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)にも歩いて行けるので、あわせてご紹介。どちらもとっても素敵な建物なんです。
1.旧公衆衛生院とは?
東京メトロの白金台駅の2番出口から出ると堂々とした建物があります。港区立郷土歴史館で、かつては公衆衛生院として使われていました。
公衆衛生院とは、国民の保健衛生に関する調査研究と公衆衛生の普及活動を目的に国が設立した機関。
昭和13年(1938年)に米国の巨大財閥であるロックフェラー財団の支援・寄付によって建てられました。
平成14年(2002年)に統廃合されて埼玉県和光市に移転するまでのつい最近まで使用されていて、2018年に郷土歴史館としてリニューアルオープンしました。現在は港区の歴史や文化に関する展示をしたり、小さいですが図書館やミュージアムショップ、カフェもあり、港区民の憩いの場所となっています。
2.設計者 内田祥三について
設計者は内田祥三(よしかず)。内田は東京帝国大学で教鞭をとっていましたが自身も多くの建物を設計しています。
有名なところでいうと、前述した東京大学 本郷キャンパスの大講堂(安田講堂)。
今回訪れた旧公衆衛生院は鉄骨・鉄筋コンクリート造りで、レンガのように見えるスクラッチタイルで覆われています。内田の建築様式は縦のラインだったり連なるアーチ状のエントランスが特徴的で、通称「内田ゴシック」と呼ばれますが、よくよく考えて見たら内田ゴシックの建物の中に入るのは初めてだった!
昭和期以降の建物はコンクリートやガラス張りで味気なくなっちゃうのであまり私は好きじゃないのですが、このスクラッチタイル、いい味出しだしてるおねぇ~。
ちなみに隣には東京大学医科学研究所(昭和11年/1936年竣工)があるのですが、規模は違うものの、まるで双子のようにそっくりで、こちらも内田の設計によって建てられました。
たとえば教会の入口のような、こんなかわいらしい出入口。
ヨーロッパの教会のような尖塔の入口。内田ゴシックのデザインパターンとしては「あるある」で、東大の構内の建物もこのような装飾がされています。
(いつか潜り込んで見学してみたい)
ちなみに白金台駅から向かうと最初にこの出入口が目につきますが、こちらは正面玄関ではありません。
こちらから入ろうとしたらスタッフの人に呼び止められてしまった。
3.旧公衆衛生院 内部は見学できます
ちょっと大まわりになりますが、正面玄関目指して歩くと、突然、
でかっ!これが郷土歴史館だなんて。
いや、当時はお役所の建物だったんだよな。贅沢だわ!!!
役所や研究施設というより、大学のようです。東大の安田講堂のイメージがあるからか。
と思っていたら、その感想は正しいようで「学校建築」に分類されるそうです。職業訓練施設や研究所を兼ねていて、講義室や実験室、講堂や図書室、女子寮まであった。大学のような施設だったそうです。
内部は港区の歴史や文化などに関する常設展、企画展をやっているのですが、ワタシ達のように建物を見学する目的のビジターもいるからか、展示は有料だけど内部は無料で見ることができます。
入口の階段を上がり、2階がエントランスになっているのだけど、もうね、エントランスの照明とか、そのレベルで「素敵。」。
見惚れていたら、スタッフの方が「旧公衆衛生院 建物見学のご案内」という建物見学用のパンフを持ってきてくれました。見どころがまとまっていていいパンフ!見学の際にはぜひもらってください。
いやほんと、入口の照明がまず素敵で、天井から土星が吊り下げられているみたいでかわいいのです。
「旧朝香宮邸(東京都庭園美術館)に行く前に軽く見学しよう」レベルだったけど、2時間はかかりそうだな・・・。
入ってまず息をのむのが2階の中央ホール。
2階~3階が吹き抜けになっていて、左右にわかれている階段がゴージャス。そして床の装飾もまたおしゃれ。手すりの装飾もおしゃれ。時計のフォントまでレトロでおしゃれ。なにもかもが素敵!
床は天然石、壁は人造大理石ですって。床、どうやってこんな装飾に作ったんだろう・・・。
木の質感で暗く見えがちだけど、階段の手すり部分や3階の吹き抜けのところの装飾が透け感があって自然光が入ってくるので、写真で感じるほど暗くはないです。
私が行った日は曇っていたのだけど、天気が良かったら明るいだろうな。
吹き抜けの部分を撮りたかったので縦構図で撮影したけど、横構図ももちろん素敵。
旧公衆衛生院の建物の「顏」ですね。訪れた人間は必ずここを通り、装飾の見事さにため息をついたことでしょう。
ちょっと不思議なのは、2階と三階の間の円形の漆喰の部分。この手の建物にしては、彫っている図柄がシンプルすぎるような気が。公の建物ということで、あまりゴテゴテ飾り付けるのは避けたのでしょうか。
装飾とは全く関係ないけど時計の文字盤のフォントがかわいい
と思ったら、ミュージアムショップにこの時計のデザインの手ぬぐいがあってこれもまたかわいかった。目のつけどころがいいぞ!
2階エントランスに入って右手の奥にミュージアムショップがあります。この写真の奥です。
こうやってみると通路は装飾がなく、役所っぽい。
いただいた建物見学のパンフに上から順に見学するルートが書かれてたので、最上階の6階から見学していきます。
旧公衆衛生局 フロアガイド
- 1階 食堂
- 2~3階 中央ホールや旧院長室などがある「表の顔」の役割
- 4~5階 授業を行う教室や実験室がある学校・研究所の役割
- 6階 学生寮
4. 6階 旧寮階へ
写真は女子寮があった6階部分。
公衆衛生学を学びにきた保健師の女子寮として設計されました。
廊下はパーケットタイル※ を敷き、落ち着きのある空間となっています。廊下の左右に合計約40室の居室(和室・溶質)が配され、共同の風呂・シャワー・洗面室もありました。
※木片を寄せ集めて作られた寄木張りの床材港区郷土歴史館 案内板より
案内板に建てられた当時の昭和13年撮影の写真がありましたが、和室も洋室も快適そう。和室は床の間まである。洋室はベッドが1台しかなかったから1人用だと思いますが、和室も机が1つなのは(しかも”文机”ではなく学習机!)1人部屋だったのでしょうか。だとしたら和室でも洋室でも広い!贅沢な間取りだわ!
通路の奥は事務室になっていて立ち入り不可。でも小さな部屋がたくさん並んでいるように見えます。
当時の寮の部屋の間取りをそのまま活かして研究室や執務室として使い勝手はよさそう。
5階、6階にあるデッドスペースのような狭い一画があって、休憩室として設計されました。
下見板張りの木の部分には小さな穴がいっぱいあいていたのがそのままになっていましたが、きっと「お知らせ」が画びょうで止められていたのかな。など、当時の女性の過ごし方が感じられました。
ここには物が置いてあったんだろうなぁ。
ここで講師や課題についての愚痴とかおしゃべりしてたんだろうな。
今だったらきっと自動販売機が置いてあるんだろうなあ。
など想像してみたり。
偉い人の整った執務室やゴージャスなお部屋を羨望のため息をつきながら見るのも楽しいですが、こういう生活の跡を見るのが建物めぐりの醍醐味だったりします。
ワタシは特にお風呂やトイレなど、水まわりを見るのが好き!水まわりは一番生活感が感じられる場所です!
写真左側。謎の扉のようなものがあってつぶしてありますがなんだったんだろう?
当時は中央、左右のウィングに1基ずつで合計3基のエレベーターがあったそうです。上にあるのが回数表示のように思えるのだけど、エレベーター跡として紹介されていたところとはちょっと形状が異なりました。詳細はわからず。
中央ホールの階段を下りて4階の旧講堂へ向かいます。
5. 4階 旧講堂
4階にある旧講堂は旧公衆衛生局の中で最も美しい部屋だと思います!ここに来てみたかった!
4階の右側の奥。旧講堂へ。
すごい。美しい。
階段状に並べられた机と椅子。
音響を考慮されているのか?アーチ状の天井の装飾も。とにかく「線」がきれい。
旧講堂は椅子のクッションと天井板以外は建設当初の部材のままだそうです。
ステージ側から入口を眺める。
あまりにも素晴らしい講堂なので、ここで何かスピーチしろと言われたら雰囲気に圧倒されて何もできないかもしれない。
ましてや、全340席が満席だとしたら・・・完全に飲まれますね。
旧講堂は現在の各種法律上の制限で集会施設として使用することはできないそうですが、こうしていつでも見学できるのは嬉しい。
なお、建築当時からは講義室や実験室などは改修されているので当時の姿は写真でしかわかりません。
変わっていないのは中央ホール、旧講堂、旧院長室なのですが、それだけでもじゅうぶんに目の保養になります!
港区立郷土歴史館 旅行記INDEX
- ①内田ゴシックはすごいぞ 旧公衆衛生院の講堂にうっとり
- ②戦前の「書庫」見学と絶品野菜ランチ
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